遺言執行者と相続人と受遺者

家事事件手続法は、①現物分割、②代償分割、③換価分割、を遺産分割方法と定めています。

換価分割は、金銭に換えて分割することなので、遺産の分配基準の公平性に優れているというメリットがあります。

相続財産性と換価差額

換価金銭は、相続財産そのものではないものの、金銭へと変化した相続財産なので、そのまま相続税の課税対象になります。課税価格の計算に於いては、その取得金銭の価額で計算することになるとも考えられますが、代償分割が行われた場合の代償金の課税価格の計算と同様に、換価金銭の額そのままではなく、換価した財産の相続税評価額への圧縮計算を行うことも可とされています。

遺言執行者と相続人と受遺者


不動産登記と換価分割
換価遺言の場合、遺言執行者に管理処分権限があるものの、換価する相続財産に対して、遺言執行者に所有権があると言い切るのは難しく、また、受遺者についても、所有権を有しているとは認められず、さらに、相続人には、換価代金を換価相手から収受する権利もなく、実質的にも財産を支配する状態にはありません。また、遺言者の真意に照らしても、換価代金の分配とは別に、換価される相続財産をわざわざ相続人に帰属させる意思があるとは解しがたいところです。

しかし、不動産登記の場面になると、法務局としては、遺言執行者による第三者との直接的な換価行為を認めたがらず、一度相続人に相続登記をして、その登記された相続人の名義で換価処分としての譲渡行為を行う、というような、所有権者と譲渡行為者の擬制を求めてきます。この名義擬制の登記の関係は、信託の場合の委託者、受託者、受益者の権利関係に類似しているので、信託税制と同様の課税関係になります。

不動産登記の擬制と課税関係

国税庁の照会情報では、遺産分割の調停により換価分割をすることになり、共同相続人の1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、その後において、換価代金を分配することとした場合、それは単に換価のための便宜のものであり、贈与税の課税が問題になることはない、と解説しています。即ち、譲渡益の課税関係も、名義人ではなく、受益者に生じることになります。

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家事事件手続法
第百九十五条(債務を負担させる方法による遺産の分割)
第百九十四条(遺産の換価を命ずる裁判)

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/13/01.htm
遺産の換価分割のための相続登記と贈与税
【照会要旨】
遺産分割の調停により換価分割をすることになりました。ところで、換価の都合上、共同相続人のうち1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、その後において、換価代金を分配することとしました。この場合、贈与税の課税が問題になりますか。
【回答要旨】
共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません。【関係法令通達】
相続税法第1条の4

http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0301020000.html
価額分割により取得した遺留分としての分配金は譲渡所得の収入金額に該当するとした事例
裁決事例集 No.22 – 29頁
遺産分割が家事審判に基づく競売による価額分割の方法により行われ、当該分割の対象となった土地の競売代金のうちから取得した遺留分相当額の金員については、相続財産として取得したものであり、譲渡所得の課税対象とはならない旨の主張について、譲渡所得の課税は、譲渡所得の基因となる資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産の所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであり、当該金員については、家事審判に基づく競売による価額分割がなされたことによって、その値上がり益の清算が行われたものと認められるから、所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当するものであり、したがって、原処分は相当である。
昭和56年6月1日裁決

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/85/01/01.pdf
換価遺言が行われた場合の課税関係について
小柳 誠 税務大学校 研究部教授
要約
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換価遺言に係る当事者間の権利義務関係に着目すると、遺言の効果が発生すると、遺言執行者に換価財産の管理支配権限が帰属し、所有権と同等の権利を有するともに、相続人には何ら実質的な権利は存在せず、一方、受遺者には、換価代金を受益する権利が生じる。これらの当事者の権利関係は、信託の場合の当事者(委託者、受託者、受益者)の権利関係に類似している。
制度論的には、換価遺言の場合は、信託税制と同様の課税関係にすることが望ましいと考える。