海外プログラマーにソフトウエアの開発を委託して支払う報酬の源泉徴収には、徴収漏れによる課税リスクの回避が必要です。

居住者と非居住者の判定

所得税法では、「非居住者」を「国内に住所も1年以上の居所も有しない個人」と定め、職業の状況、家族や資産、滞在期間などで生活の本拠が国外にあるかで判定します。また非居住者は、国内源泉所得に課税され、居住者とは源泉徴収の範囲も異なります。

判例には、国内不動産を相続した米国籍の日本人を居住者と認識して当該不動産を取得した法人が、売主の生活の本拠は国外にあり、非居住者として源泉徴収漏れとされた事例があります。

著作物としての要件

委託したソフトウエアが非居住者の著作物の場合、委託者には、著作権の使用料または譲渡の対価として源泉徴収義務が生じます。著作物となるかは、契約の目的、内容、契約当事者の意思から判断されます。

判例には、ソフトウエア開発委託の対価として国内源泉所得としなかった法人が、著作権の使用料または譲渡であるとして源泉徴収漏れとされた事例があります。

プログラマーの専門的な知識・経験

国内で行われる非居住者の「人的役務の提供」に源泉徴収義務が生じる要件、プログラマーが所得税法施行令第282条の「科学技術、経営管理の分野で専門的知識又は特別の技能を有する者」や所得税法第161条①十二イの自由職業者に該当するか必ずしも判然としません。参考となるのは、居住者の自由職業者として所得税法第204条で例示する「技術士」です。租税条約にも自由職業者に「技術士」を例示しています。技術士は、「技術的専門知識高等の専門的応用能力及び豊富な実務経験を有し」と定義されており、プログラマーの役務提供に対する源泉徴収義務の判断基準にも利用できそうです。

租税条約を活用する

著作権や人的役務提供が国内源泉所得に該当しない場合、源泉徴収義務は生じません。また国内にPEを有さず、源泉徴収義務が生じるときは、租税条約の活用も可能です。租税条約は国内法に優先適用されるため、「租税条約に関する届出書」を提出して源泉徴収税額の軽減・免除を受けられます。

※非居住者の国内PE帰属所得については「源泉徴収免除制度」も利用できます。

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<源泉徴収義務の判定手続>
1.居住者か非居住者であるかを確認する。
職業の状況、家族や資産の状況などから生活の本拠がどこにあるか、日本での滞在期間などにより判定する。
2.対象となる国内源泉所得を判定する。
非居住者の国内源泉所得(所得税法161条)から、ソフトウエア開発に対する支払について該当する可能性のあるものを抽出する。また法令の規定や判例を参照する。
(1) 著作権の使用料または譲渡による対価(所法161①十一)
著作権法に照らし、委託契約の目的、内容から契約の意思を解釈し、成果物に著作権の設定を認める場合、その使用または譲渡対価の支払に源泉徴収義務を認識する。
(2) 人的役務の提供事業に係る対価(所法161①六、所令282)
プログラマーと雇用関係、専属関係を有する事業者に対価を支払う際、国内で受けた人的役務が「科学技術の分野の専門知識や特別の知識や技能を活用する」場合は、源泉徴収義務を認識する。
(3) 人的役務の提供に対する報酬(所法161①十二イ)
国内において自由職業者であるプログラマーと契約して報酬を支払う際、高度な専門的応用能力や指導経験に裏付けられる業務である場合は、源泉徴収義務を認識する。
(4) 上記のいずれにも該当せず、国内源泉所得にも該
当しない場合、源泉徴収義務は認識しない。
3.租税条約による軽減・免除の適用を検討する。
(1)~(3)に該当する場合、租税条約があるときは国内法に優先適用されるため、「租税条約に関する届出書」「特典条項に関する付表(該当ある場合)」を提出し、源泉徴収税額の軽減・免除を受ける。源泉徴収義務の可能性が高いときは、源泉徴収を認識し、租税条約を活用する。
<租税条約 使用料の債務者主義> 一般的な扱い
国内法では、著作権の使用料・譲渡対価の支払について、国内において業務を行う者から支払を受ける場合に国内源泉所得として課税する「使用地主義」を採用するが、租税条約では、一般的に、使用料について債務者の居住地を源泉地として課税する「債務者主義」を採用している。
<インドとの租税条約 人的役務提供の債務者主義>
インドの非居住者による人的役務提供には「債務者主義」を採用しており、インドで行われたソフトウエア開発にも国内源泉所得として支払者に源泉徴収義務が生じる。
※ 源泉徴収免除制度の適用を受ける
非居住者は、国内PEに帰属する所得について、税務署長から「源泉徴収免除証明書」の交付を受け、支払者に提示した場合、源泉徴収を要しないこととされる。
<判例>
「不動産売買代金に対する源泉徴収義務」
東京高裁 H28.12.1判決 Z266-12942
「非居住者等の国内源泉所得(使用料)に係る源泉徴収」H21.1211裁決 J78-2-14
所得税法施行令 第15条 (国内に住所を有しない者と推定する場合)
一 その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。
二 その者が外国の国籍を有し~国内において生計一にする配偶者その他の親族を有しないこと、~その者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、~再び国内に帰り~国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。
著作権法 第2条(定義)
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したもの~
第10条(著作物の例示)
九 プログラムの著作物